ISSUE #10 · 2027 SS
'watercolour path, watercolour path, watercolour path'
視力が悪く、家では眼鏡を、外出先ではコンタクトレンズを使用しています。
入浴時や眠る時は、もちろん何もつけていないのですが、
その時の視界がUta Barth氏や川内倫子氏の写真のように写り、
その滲みが、そのぼやけが、その写り方が、
なんだか好きです。
前回、イタリアでファッションショーをやりました。
もちろん、気合も気概も充分すぎるくらい、
でも、超過料金取られないくらいに荷物に詰め込んで。
初日に、ショーに必要な買い出しを終え、
スタッフたちと昼食を摂ろうということになり、
折角のイタリアなので、パスタやピザが食べようと、歩いて行けるお店を探し、
その店に向かっていました。
向かう途中、本当に何もないところで、盛大に転んでしまいました。
アメリカンコミックの効果音の文字で、
そのコマいっぱいにBAM!と表示されるくらい盛大に。
お気に入りのジーンズがお気に入りのダメージジーンズになるくらい盛大に。
ついでに、つけていたコンタクトレンズが取れてしまい、使い捨てということもあり、
もう外して食事を摂ろうと、店に入りました。
もちろん、転んだ直後で痛いという気持ちが強いのですが、
オーダーしたカルボナーラが、
麺なのか、
リゾットなのか、
少し歪な満月なのか、
判別が難しいくらいぼやけていて、
「この景色いいなぁ。」
と、なんともまぁ能天気に思っていました。
イタリアのショーも無事なのかどうなのか、終わり、
年末年始に休みが取れなかったので、一月の末に実家へ帰りました。
小学校からの旧友達と必ず飲みにいくのですが、
飲みいくと、やはり「当時の話」になります。
歳を重ねたんでしょうね。
「あの時、あのミュージシャンがさぁ。」
「色々作ってきたけど、あの時に一緒に作ったアレ、結構ええよな。」
「あいつは、今どんな仕事してるんやろなぁ。」
常套句のような言葉が重なっていきますが、それが仲のいい友人との間では、心地よく、
小さな同窓会も悪くないものだな、と想います。
結構酔っ払って、気分上々な帰り道、いつもより思慮浅い中ふと、
英語では同窓会を、alumni reunion(卒業生の再会)と書くけど、
日本語では、同級会とは書かずに、「同じ窓」の会と書くよなぁ、素敵だなぁ
と、想いました。
「同じ窓」から見える「同じ景色」を共有してきた人たちの集まりという意味なのかどうかは、これ以上調べたらいけない気がしたので、分かりませんが、とても奥行きがあって、素敵な言葉だなと想いました。
最寄りの駅に着き、
旧友たちとも別れ、
酔いに身を任せ、
ベッドへダイブ、
脱ぎ捨てたニットと似たようなポーズを取りながら、
鼻提灯の一つや二つの灯りを灯し、
眠りにつきました。
朝、目を覚ますと、視界はぼんやり。
喉が渇き、許可していないのに指先まで住み始めたアルコールたちを追い出すために、
近くのコンビニまで散歩がてら、飲み物を買いに行こうとパジャマのまま、出かけました。近いし、慣れ親しんだ街なので、裸の視力のままで。一応、眼鏡は持って。
コンビニへ向かう道中、幼い頃に小学校へ向かう通学路を歩くのですが、
当時あった、何屋さんかも当時分からなかった看板が。
空き地だったあそこに、新しい住人を迎える建物が建ち、そのマンションの名称が。
あれ、今ここって何丁目だっけと思い、見た標識が。
枯れ木にほんの少し香り付けのように残っている葉と枝の境目が。
全てぼやけて、建物や空気や記号たちが、水彩画のように滲んで写りました。
もう少し、この水彩画の散歩を泳ごうかと、ほんの少し長めに散歩しました。
線路沿いの、壁が当時より錆びている気がする。あ、ほらね。
全く認識できないけど、色んな家が建ち、家庭が生まれているなぁ。
慣れしたんだ街は、ぼやけていても、滲んでいても、
年老いたり、生まれたりを繰り返していました。
ぼやけていたからなのか、滲んでいたからなのか、酔っ払っていないからなのか、
いつもより、「同じ窓」からその情景を見ていた当時の自分と会話しながら、
当時お気に入りだった音楽を一緒に聴きながら、その散歩を楽しんだ気がします。
懐かしさは、人を豊かにするかどうかは分かりません。
ただ最近、「新しさ」について考えることがありました。
ファッションに身を置くと、「新しい」をどうしても求められる気がします。
ただ、「新しい」の定義づけは難しく、誰も言葉にできていない気もします。
その「新しさ」が自身のピントをずらし、それこそ「ファッション眼鏡」をかけ、
必死に凝視しようとしたことも、多々ありました。
大体、度数が合っていないんですけどね。
そんな中、思ったことは、
人は昔慣れ親しんだ空気の中で出会った衝撃に「新しさ」を覚え、
その過去にあった「新しさ」を求めているだけなのかな、と。
歳を重ねると、どうしても昔の話になりますし、その時、斬新だった、新鮮だったモノやコトに、自分がもう一度触れたいだけなのかもな、と。
僕は、昔から
散歩が好きですし、
冬が好きですし、
月が好きですし、
家というモチーフが好きですし、
ビールはだいぶ大人になってからですが、好きです。
この、自身に昔から流れている「新しい過去」を繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返すことで、「懐かしい未来」を作ることが大切なことなのかな、と想っています。
「新しい過去」を繰り返し、「懐かしい未来」を作る。
その「懐かしい未来」のビジョンに、新しさを感じてくれる人もいるでしょうし、一人でも多く共感してくれる人がいてくれたら、幸せです。
みなさんも是非、その「眼鏡」を外して、「同じ窓」から見えるような、ぼやけて滲んだ慣れ親しんだ散歩道を、心の中で、「繰り返し」歩いてみてください。
乾いた風が吹くその散歩道も、ぼやけや滲みが潤いを与え、
その道中で、吹く口笛も綺麗に機嫌良く響きますよ。
その口笛は、スズメのように軽やかに舞い、風で絵を描くように空に澄み渡っていき、
その様は、とても素敵に映ります。
ピントが合ってないっていうのも、良いものですよ。
全部が明瞭じゃなくて良いんですよ。
「繰り返す」事って大切だと想いますよ。
僕は、ひとまず、
また指先まで彼らに住んでもらうために、コンビニへビール買いに行ってきます。
コンビニへビール買いに行ってきます。
ISSUE #10
'watercolour path, watercolour path, watercolour path'
参考資料
Uta Barth — ‘THE LONG NOW’
Uta Barth — ‘In Between Places’
Patrick Pound — ‘WINDOWS’
鈴木ジェロニモ — ‘水道水の味を説明する’
26年越しに見た‘とある’方南町の景色
26年前に見ていた’とある’地元の景色
Issue #10 soundtracks
M1: Homecoming (Blank Grey Canvas Sky)/ Peter Broderick & Machinefabriek
M2: Scott Street (Stranger in the Alps)/ Phoebe Bridgers
M3: Curls (Ribbons)/ Bibio
M4: Walking Far from Home (Kiss Each Other Clean)/ Iron & Wine
M5: 夕暮れの百道浜 / 小山田壮平
M6: 口笛 / Mr.Children